学校も部活も遊びに行く約束も、何もない休日。特に何をするでもなく時間を潰していたところへ、 不意に響いたチャイムの音に腰を上げた。 「はいはーい」 玄関へ向かいながら誰だろうと首を傾げる。誰かが来る予定なんてもちろん無いし、何か届く予定もない。 とにかく出てみればわかることだと結論付け、玄関のドアから訪問者を確認する。 そうして見えた思いがけない人物の姿に、一条は慌てて鍵を開けた。 「来栖!!」 開け放ったドアの向こうで軽く手を上げた人物の名を呼ぶ。 「どうした? 突然。…なんか約束、してたっけ」 「いや、ちょっと用があって。今日は予定無いって言ってたし…まずかったか?」 問い掛ける言葉に慌てて首を降り、とりあえず上がるよう促す。 きっちり靴を揃え、慣れた様子で先程まで自分のいた部屋に進んでいく背中を見つめ、 まだ少し早い鼓動を落ち着けるよう息を吐きながら後を追った。 「それで、用って何?」 冷蔵庫から取り出したお茶をコップに注ぎ、テーブルに置きながら口を開く。 自分の分も注いで向かいに腰を下ろせば、それを待っていたように持参していたらしい ビニール袋が取り出された。 「これ、菜々子から」 「菜々子ちゃん?」 続いて告げられた、来栖の可愛がっているいとこの名前に首を傾げる。 何だろうと視線で問えば見てみるよう促され、少し大きめなその中身を覗き込んだ。 そして。 「………金魚?」 現れたものに思わず目が点になった。 こちらの動揺等まるで知らないと言わんばかりに、パックに満たされた水の中の金魚が ひらりと尾を揺らす。 「え、何で金魚? 菜々子ちゃんとそんな話したっけ」 疑問符を浮かべながら来栖を見れば、その顔は楽しげに歪んでいて。説明を促す言葉に ゆっくりと口を開く。 「この前うちで夕飯食べていっただろ」 「ああ。それで?」 思い出すのは数日前。部活後用事があるという長瀬を欠いた二人でいつもなら愛屋へ… という流れになるところなのだが、 その日は来栖の叔父さんの帰りが遅いということで、それならばと来栖の家で夕飯に 与る事になったのだった。 食後3人で話して家へと帰ったわけだが…その時に何かあっただろうか。首を傾げつつ、 次の言葉を待つ。 「一条が帰った後、菜々子が何か考え込んでてさ。聞いてみたら…」 康ちゃん、おうちに一人でさびしくないのかな…。 「というわけで、一人暮しの康ちゃんが寂しくないように同居人を連れてきたわけ」 「菜々子ちゃん…そっか」 家に一人でいつも寂しい思いをしているのは自分よりも菜々子の方だろうに、 わざわざ気にかけてくれた事実に胸が熱くなる。 いつも思うが、本当に出来た小学一年生だ。来栖が可愛がるのもよくわかる。 「鮫川という名の産地直産だから、活きのよさは保証する。可愛がってやってくれ」 「ああ…って、もしかしなくても来栖が捕まえたやつだったりする?」 まだ何か含んだ様子の来栖が笑みを浮かべて言う言葉に笑いを零しながら、ふと浮かんだ 考えを口にすれば肯定の返事が返ってくる。 時折川原で釣糸を垂らす姿は見かけていたが、つくづく器用な奴だ。 それにしても妙に楽しげな来栖の様子は一体どういう事なのだろう。 「…まだ、何かあるわけ?」 眉を寄せて少し構えながら問う。途端、刻まれていた笑みが更に深くなって。 「その金魚、俺と同じ名前らしい」 しっかり世話してやってくれよ? 言われた言葉に思考停止すること数秒。 「ッ、はぁ…?!」 思わず飛び出した叫び声と、弾けるような笑い声が重なった。 *** 魚テーマでもそもそ書いてたときの遺物。 久しぶりに見て何で川で金魚? と思ったけど、たぶん ぺよんだからという結論に落ち着きました。 一主+菜に夢を抱きすぎなのは最早仕様。