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「あ、足立さん」


夕暮れの河川敷。不意に届いた声に振り返れば、そこには想像通りの人物が
夕日を背に佇んでいた。


「北斗君。いま帰り?」
「はい。足立さんもですか?」


足を止めた僕に並ぶようにやってきた上司の甥っ子に、当たり障りの無い問いを口にする。
返ってきた答えと、同様の問いに頷いてみせれば途中まで一緒に行きませんか、と切り出された。


「あ〜、僕これからジュネス寄ってく予定なんだけど、それでも良かったら」


鮫川から彼の家とジュネスとは方向が異なる。途中まで一緒にとは言っても
必然的に短い距離になることを言えば、構わないと了承の言葉が返された。


「これからジュネスって事は、夕飯の買い物ですか?」
「そ。冷蔵庫の中が空っぽになっちゃってね〜」


参ったよ。寝癖の付いた頭を掻きながら苦笑いを浮かべてみせる。
日の沈みかけた河川敷は他に人の姿もなく、空にはうっすらと月が浮かんでいる。
そんな中、他愛ない話をするのは酷く久しぶりのような気がした。
時折沈黙を挟みつつも少しゆっくりとしたペースで進み、そうしてそろそろ分かれ道に
差し掛かろうという頃。
隣を歩いていた彼が何か思い浮かんだように口を開いた。


「そうだ、良かったらこれ少し持って帰ります? 沢山あるんで」


言って、出されたのは彼がずっと持っていたバケツ。
覗き込んだ中には数匹の魚がゆらゆらとその身を漂わせていた。


「へぇ、これ全部君が釣ったの? すごいね」


まだ制服を着ている事から考えて、学校が終わってから釣っていたのだろうが、そんな短時間にしては
彼の言葉通り随分沢山釣れている。
正直に感嘆の言葉を零せば、はにかんだような笑みを浮かべて謙遜する姿が初々しく見えた。


こんな顔もするんだ。


新たに知った一面に、一瞬どきりとする。そんな自分を我ながら単純だと思わなくもないが。


「あー、でも気持ちは嬉しいんだけど、僕魚さばけないんだよね」


気を取り直して断りの言葉を口にした。気持ちは有り難いが、料理の苦手な人間に
魚をさばく…しかも生きているものは荷が重過ぎる。
正直にそう告げれば彼もその事に気が付いたように納得の声を上げて、それから何か考えるように
口元に手を添えた。
いつの間にかたどり着いていた分かれ道に足を止め、そんな彼の様子を見守る。


「それじゃ足立さん、よかったら今夜うちで夕飯食べていきませんか」


そうして告げられた提案に、ぽかんと目を丸くした。


「…え、いいの?迷惑じゃない?」
「大丈夫です。菜々子も、人数が多い方が喜ぶだろうし」


それとも、急だし都合悪いですか?


控えめに尋ねてくるのに慌てて否定の声を上げる。


「いやいや全然平気!迷惑じゃないなら、お言葉に甘えちゃっていいかな」


一息に告げれば勿論です、と柔らかい笑顔で返されてこちらも笑顔になる。
そうと決まれば先程までは異なっていた行き先も同じというわけで、彼の手から
下げられているバケツを揺らさないように受け取る。


「それじゃ、行こうか」
「はい」


再び並んで歩き始めた帰り道。
彼に釣られたのは、どうやら魚だけではないらしい。


 

***
同じく魚テーマで初足立だった話。何を思ったか白足立。
ついつい黒くなりかけた覚えがあります。